

ポジ仙人。僕、税金とか法律とかの話って大っ嫌いなんですよぉ……。
だって難しくて全然分かんないんですもん。
それに僕の親は資産家じゃないから、相続税なんて僕には関係ない話でしょ?

ネガ男くん、実は相続税が関係するのは何もお金持ちの人だけではないんじゃよ。
たしかに昔は相続税の課税対象者は少なかったんじゃが、2015年(平成27年)の大きな相続税改正によって課税対象者が急激に増えたんじゃ。
その影響で普通の一般家庭であっても、決して他人事じゃないんじゃよ。
実際それで「ある日突然、相続税がかかることを知ってビックリ!」という人も増えているからの〜。

じゃあ、もしかして僕も親が亡くなった時は相続税を払わないといけないかもしれないんですか?
うぅ……。それなら気乗りしないけど、少し勉強しておこうかな〜。

そんなに重く考えなくても大丈夫じゃよ。
相続税の課税対象者かどうかの計算は一度覚えてしまえばカンタンじゃからの〜。
もくじ
相続税改正によって何が起こった?
平成27年(2015年)1月、相続税が改正されました。
改正内容をできる限りカンタンな説明にすると、「今まで相続税を支払わずに済んでいた人がたくさん課税対象になりましたよ」ということになります。
これにより、今までは相続税とは無縁だった人が、突然相続税の申告や支払いが必要になった、という事態が増えています。
よくあるのは以下のようなパターンです。
- 親は自分の両親を亡くしたのが2014年以前で、相続税の課税対象者ではなかった
- 2015年以降に親が亡くなった
- パートナーや子供が突如「課税対象者」であることを知りパニックになる
もしかするとあなたもそのパターンではないでしょうか?
また、相続税の申告や支払いは公共料金のように自宅に振込用紙が届き、郵便局などで振り込めばOK、といったカンタンなものではありません。
被相続人(亡くなった方)が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内に、申告ならびに納税を自分でしなくてはいけません。
誰も「あなたは相続税の課税対象者ですから、手続きしてくださいね」とは言ってくれないのです。
申告については税理士に頼んで手続きしてもらうことがほとんどですが、税理士を探したり依頼をするのも相続人であるご家族の役目になります。
※家族が亡くなった途端、地域にある会計事務所から相続税手続きの案内が届くこともあります。
また、相続税の納税は「現金一括払い」が原則です。
そのため、相続財産が現金や預金ばかりであればそこから支払うこともできますが、不動産などすぐに現金化するのが難しい資産の場合は大変です。
自分の預金から払うか、払えなければ財産を差し押さえられてしまったり、最悪の場合は破産してしまうということも考えられます……。
せっかく不動産を相続できたと思ったら、いきなり手放さなければならないなんて悲しすぎますよね。
「どうしても払えない」という場合は、延納申請をして許可を得ることで5年〜20年の分割納税ということもできますが、一定の要件を満たしていなければ許可も下りないというのが実情です。
※資産状況的に本当に払えないのか、担保があるのか、など。
さらに延納した場合は利子税が発生するため、通常より多くの金額を収めなくてはいけません。
他にも「物納」といって不動産などそのもので支払うこともできますが、これをできるのは「一括でも分割でも支払うことができない」と認められた場合だけなので、ある程度の預貯金や収入があれば物納は認めてもらえません。
さて、そんな自己責任で申告ならびに納付しないといけない相続税ですが、改正前と改正後でどれだけ課税対象者数に変化があったのでしょうか?
国税庁の発表を元にご紹介したいと思います。
2014年から2015年は相続税の課税割合が約2倍に急増

みなさんはその1人になりそうかの〜?
グラフで見ると一気に跳ね上がっているのが分かりますね。
出典:国税庁 平成27年分の相続税の申告状況について
ちなみに税制改正が決まった当初は、「相続税の課税対象者は約1.5倍に増える見込み」と言われていましたが、蓋を開けて見れば約2倍に増えたのです。
これを人数で見てみると相続税の課税対象となった被相続人(亡くなった人)数は2014年が約5万6千人だったのに対し、2015年は約10万3千人となっています。
※ちなみに2015年に亡くなられた方(被相続人数)は約129万人です。
詳細は以下の表をご覧ください。
平成26年(2014年) | 平成27年(2015年) | 対前年比 | |
---|---|---|---|
課税対象となった被相続人数(死亡者数) | 56,239人 | 103,043人 | 183.2%増 |
課税割合 | 4.4% | 8.0% | 3.6ポイント増 |
出典:国税庁 平成27年分の相続税の申告状況について
「8%」と聞くと他人事のようにも感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、人数で考えると12.5人に1人の割合です。
しかもこれは亡くなられた方の人数で求めた数字です。
遺産を相続して相続税の申告や納付をした人も、2014年から2015年でも1.7倍以上に増えているのです。
そう考えると他人事ではない気がして来ないでしょうか?
とくに東京都市圏では2020年の東京オリンピックに向けて各エリアの再開発が進んでおり、不動産価格が高騰傾向にあります。
それに拍車をかけるように相続税対策として不動産を購入する人も増えていたり、日銀の金融緩和政策によって個人投資家が増えるなど、価格が上がる要素はあれど下がる要素は現時点では見当たりません。
その影響で、「現金や株などの金融資産は少ないのに、いつの間にか不動産の価格が上がっていた」というパターンも増えており、今後さらに課税対象者は増えることが予想されています。

税制改正、恐るべし……。
でもその相続税改正って具体的に何が変わったんですか?
それが分かれば僕の親に何かがあった時にも課税対象者の8%に入るかどうかが分かる……っていうことですよね?

なかなか飲み込みが早いの〜。
では、次は税制改正の内容について学んでいこうかの。
相続税の基礎控除額の最低ラインが6,000万円から3,600万円に大幅ダウン

その人が持っている現金や預金、不動産を相続人が分けるんじゃな。
ただ、相続税を払わなければいけないかどうかは別の話なんじゃよ。
あくまでも相続税を払う必要が一定以上の資産があった場合だけなんじゃが、この「一定以上の資産」というのがポイントなんじゃ。
それでは、その辺りを細かく見ていこうかの〜。
資産の大小に関わらず誰かが亡くなった場合、その人が持っていた資産を「相続財産」として、相続人で分割することになります。
もちろんこれは現金だけでなく、預金や株券などの金融資産、不動産、ゴルフ会員権やリゾート会員権なども含んだすべての総資産です。
この総資産が一定のラインを超えると相続税の課税対象となってくるんですね。
この最低ラインが2014年までは6,000万円だったのが、2015年から3,600万円と大幅に下がりました。
たとえば総資産が5,000万円のAさんが2014年以前に亡くなった場合、遺産を相続するご家族は課税対象者ではありませんでした。

ところが、2015年の税制改正によって、総資産が同じ5,000万円でも課税対象者になったのです。

この最低ラインのことを「基礎控除額」と言います。
この基礎控除額が大幅に引き下げられたことにより、今まで相続税と無縁だった人達が突然「相続税の課税対象者」となってしまったんですね。
結果的に課税対象者が4.4%から8.0%まで急増したのです。

そんなの酷すぎるじゃないですか……。
じゃあ、3,600万円以上の資産がある人が亡くなったら、みんな相続税を払わなければいけないってことですか?

ただ、必ずしも3,600万円以上なら全員が課税対象者になるのかというと、そういう訳ではないんじゃ。
3,600万円はあくまでも「最低ライン」。
実は法定相続人(相続する人)の人数によって基礎控除額も変わるんじゃよ。
次はその辺りを解説して行こうかの〜。
基礎控除額は全員一律で3,600万円なの?
まず、基礎控除額が最低ラインの3,600万円というケースを見ていきましょう。
これは「法定相続人が1人だけ」の場合です。
たとえば一人っ子の家庭で、数年前にお母さんが亡くなり、その後お父さんが亡くなったとします。
この場合の法定相続人は子供1人となり、基礎控除額は以下の計算式で求められます。
3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
つまり、法定相続人が1人増えるごとに基礎控除額が600万円ずつ増えて行くことになるんですね。
たとえば総資産が5,000万円あったとしても、配偶者と3人の子供がいた場合は、基礎控除額は5,400万円となり、相続税は発生せず、申告も不要です。
3,000万円 + 600万円 × 4人(妻・子1・子2・子3) = 5,400万円
このように、法定相続人の人数さえ分かれば、誰でも基礎控除額を計算することができるのです。
法定相続人の人数は家族構成によって異なり、パターンが多数あります。
そのパターンについては、今回の主旨から離れることになるため、別の機会でご紹介できればと思います。

じゃあ、僕は両親がいて兄弟が1人いるから、もし親のどちらかが亡くなったら基礎控除額は4,800万円になるってことですね。
あとは親がどれくらいの資産を持ってるかだな〜。

どうじゃ? こうやってひとつひとつ見ていけば、そんなに難しくないじゃろ?
みなさんもまずは基礎控除額を知ることから初めてみてはいかがかの〜?
日本政府が相続税改正をした意図とは?

疑問がひとつあるんですけど、政府はなぜこんな相続税改正をしたんですか?
やっぱり税収を増やしたいからなんですかね?

ただもうひとつ、日本経済を活性化するためという狙いもあるんじゃよ。
相続税改正では、課税対象者の幅が広がっただけではなく、税率にも変更があり、相続する財産が2億円以上〜3億円の人で5%増、6億円以上の人も5%増となり、税率は最大55%まで引き上げられました。

出典:国税庁HPより
政府としてはもちろんここでの税収も期待していますが、それ以上に期待しているのが「生前にできるだけお金を使ってもらうこと」です。
なぜなら日本では、バブル崩壊以後、先行きへの不安から無駄な消費を抑えて預金をする人達が増え続けているからです。
2017年3月時点で、なんとその額は1000兆円を超えてしまいました。
また、お気づきの方も多いと思いますが、預金の多くを所有しているのは高齢者世代の方々です。
※預金以外の金融資産全体で見ると、約6割を60歳以上の高齢者が所有しています。
政府としては何とかこのお金を消費に回してもらいたいと考えている、というわけです。
税制改正をすることで、課税対象者が預金を消費に回す仕組みを作ろうとしているんですね。
ちなみに、こういった方法や考え方を「富の再分配」と言いいます。
現に税制改正が決まってから、相続税を節税するために、子供や孫に資産を贈与する「生前贈与」やタワーマンションを買うことによって相続税をお得にするいわゆる「タワマン節税」などが活発に行われるようになりました。
それによって例えば現金の贈与を受けた子供や孫が車や家を購入する資金として使ったり、不動産が売れやすくなって不動産価格が安定もしくは上昇するなど、経済にも影響が出始めています。
また、増税するだけでなく、生前にお金を使った方がお得な仕組みも用意されています。
たとえば平成26年中に終わるはずだった「親や祖父母から住宅購入資金の贈与をする場合は非課税とする制度」を延長するなど、積極的にお金が若い世代に移るような施策などが挙げられます。
納税は国民の義務ですので、それを逃れることはできませんが、こういった仕組みを上手く使えば節税をすることはできます。
生前対策は早ければ早いほど選択肢が豊富なため、一度家族で話し合ってみてはいかがでしょうか?
まとめ
今回は2015年(平成27年)1月から始まった相続税改正により、課税割合が約2倍に増えたことと、その原因をご紹介しました。
「親が頑張って貯めたお金なんだから、税金なんて1円たりとも払いたくない!」
という気持ちもあると思いますが、それをしてしまうと脱税という立派な犯罪になってしまいます。
税金における大切な考え方は、「払う or 払わない」ではなく、「トータルでどれだけ抑えられるのか」です。
ただ、これも難しいもので、計算上一番お得なパターンが必ずしも「相続する家族にとって最良なのか?」と言えば、そうでもないこともあります。
例えば遺産がすべて現金であれば話はカンタンですが、不動産であれば「相続させたいと思っていた人が不動産を欲しがっていなかった」ということも十分に考えられるからです。
また、逆に「現金よりも不動産が良かった」という場合もあるでしょう。
そのため、何より一番大切になってくるのが「家族での話し合い」です。
とくに子供はいつ起こるか分からない相続のことよりも自分の目の前の人生に一生懸命でしょうから、相続問題を自力で考えることはなかなかできません。
資産や状況を把握されている親御さんが積極的に声を掛け、情報開示をし、自分なりの考えを家族に伝えた上で、「家族が”その時のこと”を考えるキッカケ」を作っていくことが大切になってきます。
また、「自分なりの考え」に迷われている方は、まずは税理士さんや司法書士さんなどに相談してみてはいかがでしょうか?

たしかに家族で話し合ってみないとお互いの考えも分からないですもんね。
僕も親や兄弟がどう考えてるのか分からないし、僕の考えも伝えたことなんてないしな〜。
まずは親にそれとなく話を振ってみます!

そうなんじゃ。
家族というのは言葉以上の「心」で繋がっている反面、言葉で大切なことを話す機会が少ないという場合も少なくないんじゃな。
その反動なのか、いざ相続となった時に全員の本音が溢れ出して関係が悪化してしまう、という悲しい出来事もあるんじゃよ。
そうならないためにも家族だからこそ、言葉と心を交わしておきたいものじゃの〜。
ネガ男くんは相続税についてどれくらい知っておるかの〜?